065.「嵐」   (青薪)

過去最高に自己満足だけで書いた話。
なので無駄に長いです。前フリも長い。
終盤少しだけ青薪いちゃこらしてる程度です。
終始ふざけて書いてたので全然甘くなくて何か乾いてる。
と注意書きしてしまうような内容です。
早く100のお題消化したいので載せてしまう。
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068.「彼の恋人」   (青薪)

「薪さん、今日は“恋人の日”なんですって」
 人好きのする笑顔で話しかける部下を前に、しかし室長席に座る上司は整った顔を気難しく歪めたまま、その視線は手元の書類に落とされ動かない。
 つれない反応に、あれ?と胸中で首を傾げつつ青木は再度話題をふってみた。
「今日、恋人の日なんです」
「だから?」
「だから、恋人の日・・・」
「ああ、お前が僕に感謝する日か」
「・・・いえ、多分そーいうことではなく」
「なぜ? 父の日は父に、母の日は母に感謝をする日だろう」
「その理屈でしたら、薪さんが俺に感謝をしてくださっても」
「は? この誤字脱字が散見される報告書を締切間際に提出してきたお前に、これから時間を割いてレビューを行った上で返却し作り直せと指示する僕が、感謝? ああ?」
 めちゃくちゃ怖い。
 この上司の恐ろしさに慣れたつもりでいたが気のせいだった。きっと一生慣れない。
 しかし今のは確かに自分が悪い、と青木は素直に自省する。
 仕事中、しかも提出した報告書のレビュー最中にこんな能天気な話題を持ち出したのも、
 誤字脱字の事前チェックを怠ったのも、
 期限に余裕をもった提出が出来なかったのも、
「全て俺の至らなさゆえです申し訳ありません」
「どうでもいい中途半端な雑学を仕入れて僕に披露する暇があるなら、文書作成スキルの向上に努めろ」
 すでに折れつつある青木の心へ、さらに棘ある言葉を突き刺す間にも薪の手は滑るようにペンを走らせる。
「この前の赤い月といい、そもそもお前の情報は適当すぎる。道聴塗説もいいとこだ。今日の事だって、勝手に都合のいい解釈してるだろ」
「えっ」
 言われてみれば、その甘い響きの名称に、つい淡い期待を抱いてしまったが。具体的に何をする日か調べたわけでもない。
 ますます首の角度が下を向く青木には一瞥もくれず、薪は書類上にペンを走らせながら淡々と言葉を続ける。
「もともとはブラジルの習慣で、親しい間柄の者同士で贈り物を交換して親愛を深める日だ。恋人同士に限ったことではないし、ましてや、色事を推奨する日でもない」
 青木の下心を見透かすような冷たい半眼で、ようやく顔を上げた薪が席を立つ。
「・・・さすが薪さん、よくご存知で・・・」
 当初の陽気さはどこへやら、最早ぐうの音も出ない。薪は机の前に回り、手にした報告書一式を青木へと突き出す。
「僕からの“贈り物”だ。受け取れ」
「ありがとうございます・・・」
 うやうやしく受領した紙の束を数枚めくっただけで多数追記された赤が目に入り、青木の意識は遠のきそうだ。
「どうした、恋人からの贈り物だぞ。もっと嬉しそうな顔をしろ、お前が振ってきた話題だろうが」
「はい嬉しいです・・・」
 言葉とは裏腹にうつろな表情で頭を下げる青木を眺め、薪は腕組みをして小首を傾げた。
「“贈り物”、ひとつじゃ不満か」
「えっ」
 いやっ、これ以上のご指導とか課題とか遠慮申し上げます勘弁してください俺の心はもう折れる寸前で     などと拒否の言葉を口にできるはずもなく顔色を失う青木の、手に持たれた書類の端を薪の指が掴む。
「じゃあ、もうひとつ」
 その声と同時に、彼のもう一方の手が、するりと青木の首の後ろへ回される。その手に力がこもったかと思うと、小鳥が啄むような軽いキスは、ちゅ、と音をたててすぐに離れた。
 目を閉じる暇もなく、ひやりとした手の感触が首筋から去るのを感じながら、惚けた顔で青木が見下ろすと。
「欲張りなやつだ」
 にこりともしない恋人から青木へ向けられたのは、微かに甘さを含んだ声と瞳。
「・・・はい。欲張りです。すみません」
 鞭打たれるかと思いきや、飴が降ってきた。しかもとびきり甘い飴。
 もう一度     もっとしっかり味わいたい。
 「じゃあ、俺からも」と囁きながら寄せた唇は、しかし重なる直前に薪の手のひらで塞がれ押し戻された。
「僕が、そんなもので満足するとでも?」
 そんなものって・・・酷い。
 え、でもそれ、どういう意味ですか? な、何をご所望で? ここ職場ですけど?
「言わないと、分からないのか?」
 挑発的な笑みを浮かべた唇からこぼれる声が、青木の耳へ甘やかに滑り込む。もう思考が溶けそうだ。
「まき、さん」
「これ」
「え?」
 手元に軽い衝撃を感じて見下ろすと。青木が握る報告書の表紙を、薪の手がぺしぺし音をたて叩いている。
「あと少しだけ待ってやる。一時間で完成させてこい」
 混乱する脳内で、天国から地獄へ突き落されるとはこのことだなあと冷静に分析する自分がいる。
「い、ちじかん、ですか」
「・・・お前。自分だけ“貰って”終わるつもりか?」
 つい先刻の甘い色など消し失せた硬質な瞳が告げている。「僕が求めるものを持ってこい」と。
「しょうちしました」
 はい。薪さん、あなたが望むものを。
 ・・・いやいや、これもう恋人の日とか贈り物とか関係ないよな。単なる上司への仕事の提出物だよな。いや元々俺が悪いんだけど。
 先程とは違う意味で思考が溶け出しそうな青木の前へ、つい、と薪が身を寄せる。
「青木」
 伏せた青木の顔を、大きな瞳が長い睫毛の下から上目遣いに覗き込む。
 それだけで青木の顔は赤らみ、心臓が高鳴る。
 けれど彼の恋人の瞳も声も、言葉すら、今や無情なほどに冷ややかで。
「もう一時間をきってるぞ」
「は」
「ぼけっと突っ立ってないで、さっさと仕事に戻れっ」
「はいぃっ」
 剣呑に変わった声に追い立てられ、青木は室長室を飛び出して行った。

 -おしまい-
 

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064.「stay with me」   (青薪)


 梅雨の晴れ間の週末となった今日、久方ぶりに彼ら二人の退庁時刻が重なった。
 では一緒に帰りましょうと青木が声をかけ、薪も軽く微笑み頷く。並んで第九の玄関から足を踏み出すと涼しい夜風が額を撫で、ふと青木は頭上を仰ぎ見た。
 今宵、高層ビル群の間に鎮座する満月の姿が普段とは異なることに気づき、はたと思い出す。
「薪さん薪さん、今日はストロベリームーンですよ。ほら」
 突然顔と声を輝かせた部下の、指差す先を薪が見上げると。空に浮かぶは、赤みがかった丸い月。
「へえ・・・ストロベリーとは上手く言ったもんだな」
「願いを叶えてくれる月らしいですよ」
「願いじゃなくて、恋を叶えてくれる月だ」
「あれっ、そうでした? さすが薪さん、よくご存知で」
 道聴塗説を即座に訂正され、青木はバツが悪そうに笑う。
「俺、初めて見ましたよ」
「上ばかり向いて歩いてると転ぶぞ」
「大丈夫です。年に一度なんですから見たいじゃないですか」
「お前は見る必要ないだろ」
 え、またそんな意地悪を、と思いながら青木が視線を傍らの人へ移すと。彼は今宵の月色にも似た唇を吊り上げ、不遜な笑みを浮かべていた。
「もう叶ってるんだから」
「え」
 と言ったきり口を閉じることを失念したかのような青木の、顔が月の色をも通り越し朱に染まる。
 第一そんなものは迷信であり、アレは太陽と月の距離が離れることで大気の影響を受け赤っぽく見えるだけで、そもそも苺の名を持つ理由は色と関係ない。と科学的解説を施してやろうと思ったが、隣で赤面を続ける大男がおもしろかったので高説はやめておいた。
 二人は変わらぬ緩い歩調で歩を進める。
「月が綺麗ですね」
 ぽつりと降ってきた穏やかな声に、隣の長身を振り仰ぐと。
 まだ少し赤い顔で、けれど口元には声と同じ穏やかな笑みを浮かべた青木がこちらを見つめていた。
 ふっ、と小さく笑うように息を漏らして薪は、
「月が綺麗ですね」
 同じ言葉を彼に返す。
 途端、やにさがった顔になった青木の、声までもが浮かれ調子に転じる。
「来年も、一緒に見れるといいですねっ。ストロベリームーン」
「ああ・・・でもお前、その頃どこに異動になってるか分からないぞ。まあ安心しろ、たとえ海の向こうでも地球上で見る月は同じだから」
「・・・っ、な、なんでそういう意地悪言うんですかっ・・・!」
 おそらく情けない顔に豹変したであろう青木の泣き言を背後に聞きながら、薪は緩めた唇から密やかな笑いを零した。
 そうだ。もう、叶ってる。
 お前のも、
 ・・・僕のも。


-おしまい-

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077.「ひゃくまんつぶの涙」   (青薪)

 
「ウサギみたいだな」
 カーテンの僅かな隙間から差し込む朝陽が天井に描く、淡いラインをぼんやりと見上げていた俺は、耳元で聞こえたその声に驚いて枕に預けたままの頭を右へと向けた。
 と、こちらを見つめる琥珀色の双眸にぶつかり、曖昧だった意識が急速に浮上する。
「起きてたんですか。・・・えっと、俺は人間ですよ?」
「当たり前だ。こんな図体でかくて可愛げのないウサギがいてたまるか」
 薪さんは俺の隣に身を沈めたまま、にこりともせずに応えた。
 だって今あなたがウサギみたいって言いましたよね?俺の空耳ですか?それともお得意の禅問答ですか?

 普段はその身長差ゆえに見下ろすことの多い薪さんの顔が、褥をともにし枕を並べている今は、ちょうど目線が揃う位置にある。
 なんと応じたものかと戸惑いながら見返す俺に向けられる、その理知的な瞳が、昨夜は涙を湛え欲情と快感に潤みきっていたことなど遠い夢のように思えてくる。

「おまえ、目が赤いぞ」
「えっ」
 思わず顔をそむけてしまう。
「だから、ウサギの目みたいだなと思って」
「・・・ああ、そういう意味ですか。びっくりしました」
 俺は手の甲で両目をこすり、何度か瞬きをしてから彼の方へと体ごと向き直る。
「こすると余計に赤くなるぞ」
「構いませんよ、別に。きっと寝不足のせいです」
 笑ってみせるが、彼は頬を枕に押し付けたまま、視線だけはじっと俺の顔に固定させている。
 好きな人に見つめられるのは嬉しいし好きだ。が、今この状況は何だか居心地が悪い。
 だって目覚めたばかりなのに、まだベッドの中なのに、仕事モードに近い目と口調ですよね、それ。
 昨夜の、あの可愛らしくて艶めかしい人はどこに消えてしまったんだろう俺の妄想で幻だったのかと天を仰ぎたくなる。

「・・・あの、薪さん?何か?」
「どうした?」
「は?」
 いえ、それを質問しているのは俺の方なんですが。
 禅問答の開始を危惧しながらも次の言葉を紡げずにいると、不意に眼前へ迫った色白い手が、俺の額へと触れた。
 そのまま前髪をかきあげるように動き、驚きで見開いた俺の目を覗き込む彼の眼差しは、先程よりも和らいでいる。

「目が赤くなるほど泣いたんだろ」
「・・・・・・」
 そんなに目が赤いのか、俺。泣いたってことがバレバレなほどに。
「腹でも痛いのか」
「ち、違います。大丈夫です」
「昨日の捜査で、おまえを叱った覚えもないしな。新人時代にヘマして僕に怒鳴られたことでも思い出したか」
 ・・・薪さんの中で、俺が泣く理由って、そんなんですか。
 ていうか、およそ朝のピロートークに相応しくないですね、この会話。
「違います。何でもありませんよ」
 努めて明るく穏やかに、安心させるようにそう言うと。
 俺の前髪を持ち上げていた彼の手が、顔を縁取るように滑り降りて、頬の上で止まった。

「悪い夢でも見たか」
 そう言った薪さんの声は優しく、そして瞳は僅かに心配げな翳りを帯びている。
 何もかもを見透かすようなその眼差しの前では、隠し通せる自信は今の俺にはなくて。
「はい」
 苦笑を漏らしつつ、頬に触れている柔らかな手を取り、互いの顔の間に置いてそっと握りしめた。
「悪い夢は、人に話すと良いらしいぞ。話して悪い気を吐き出すことで、災いを避けられるそうだ」
 それは単なる博覧強記の披露ではなく、彼なりに案じ慰めようとしてくれているのだと分かって、眼前の華奢な体を抱きしめたい衝動にかられる。

「・・・実は」
 薪さんは黙って、俺の言葉を待ってくれている。
 本当は、思い出したくもないから口にしたくもない。
 けれど彼の言うとおり、吐き出してしまえばこの胸の底に沈み淀んだ不安を拭い去れる気がして。
 幾度か躊躇ったあと、俺は目を伏せつつも意を決して口を開いた。

「実は。薪さんに、浮気される夢を見まして」
「・・・はあっ!?」
 聞いたことのないような素っ頓狂な声が、眼前の人の口から発せられた。
 しかし相手の反応を気にかける余裕など持ち合わせていない今の俺は、ただ切々と夢語りを続ける。
「しかも薪さん、浮気相手の方を選んで・・・俺、捨てられたんです。あっさりと」
「・・・青木。思い出し泣きはやめろ」
 言われて、いつの間にか目尻に水滴が浮かんでいることを自覚する。
 視線を上げると、薪さんは半眼で、思いきり嫌そうに眉をしかめていた。酷い。
「・・・悪い夢って、それか。それだけか」
「はい・・・って薪さん、それだけってそれだけってあんまりです。俺にとってはどんなに」
「そうか。おまえが僕をどんな目で見ていたのかよく分かった。そんなに倫理観が欠如した人間と思われていたとは」
「は!? いえっ思ってませんそんなこと! 夢っ、夢ですから!」

 あれ?何で俺の方が弁明してるんだ?逆じゃないの?俺、浮気されて傷ついた被害者なんですけど。
 普通、こういう時は優しく慰めてくれるのが恋人じゃないんですか。
 そりゃあ全てが規格外な薪さんに普通の恋人像を求める俺が間違ってるんだろうけど、でもさっきまでは少し優しい感じだったのに、どうしてこうなった?

「そうだ。夢だ」
 その短い言葉を告げた声は、悩みも淀みも断ち切るような凛とした響きを伴っていて。
「現実の僕はここにいる」
 僕は、“ここ”に    “お前の隣”に、いるだろう。琥珀の瞳が、そう告げている。
 湧きあがった衝動を今度は押しとどめることが出来ず、たまらず抱きすくめた    というより、言うなれば大型犬が飼い主に飛びつくような様相を呈した俺の勢いと体重を受け止めきれなかった薪さんを半ばシーツに押しつけ押しつぶすような体勢になってしまい。「重い。バカ、苦しい。ちょ」と、くぐもった声が肩の下から聞こえる。
 慌てて謝りながら体の位置をずらして、けれど抱きしめた腕をほどくことはできなくて。
 圧迫から解放された薪さんは眉をしかめて嘆息し、しかし俺の腕から逃げ出そうとはしない彼の手が、自分の背中へ回されたことを感じ取る。
 その手は宥めるかのように、ぽんぽん、と背を叩く。
 たとえ俯いた表情は見えなくとも、言葉も無くとも、彼の気持ちが伝わってくる。
 そう、この人は、優しいのだ。
 その優しさを他人にも見える形にしてくれるのは、ごく稀だけれども。
 彼にとっては取るに足らない非常にくだらないであろう事柄で落ち込む俺を、いま慰めてくれている、その想いが嬉しくて。
 背を叩く手の暖かさに、胸の濁りが溶けていく。

「まだ泣いてるのか? 女の子みたいだなお前・・・」
 呆れを含んだ声と吐息に、肩口をくすぐられる。それはとても心地よくて、自然と頬が緩む。
「だって。薪さんの優しさが嬉しくて・・・」
 我ながら情けない涙声で答えると、先刻と変わらぬ呆れ声が返ってきた。
「そんなことで泣けるのか。おまえの涙腺どうなってんだ」
「俺、薪さんのことでなら、いくらでも泣ける自信あります。ひゃくまんつぶの涙だって流せます」
 さすがに呆れ果ててしまったのだろうか、薪さんからの返事は途絶え、かわりに吐き出された長嘆が肩口を湿らせた。
 その間にも、時折思い出したかのように不規則なリズムで、暖かな手が背を叩く。
「もし。次また俺が泣いた時も、今みたいに受け止めてくださいますか?」
「・・・えぇ・・・?」
 その心底嫌そうな面倒くさそうな声色、今の俺にはかなり堪えますやめてください。

 俺は少しだけ腕の力を緩め、ずっと肩口に押し付けられていた彼の顎へと手を添えて上を向かせる。
 やっと見えた顔を覗き込むようにして、斜めから唇を合わせた。
 泣き虫の大男のキスを、薪さんは目を閉じて静かに受け止めてくれている。
 それだけの事で、涙が出そうだ。どうも今朝から涙腺がおかしくなっている。
 さらに深く包み込むように口付けたところで、とん、と胸を突かれ、体と唇を離された。
「今泣いたカラスがもう笑う・・・ゲンキンな奴だな」
 そう言う薪さんこそが唇の端を吊り上げ、含み笑いをして俺の顔を見上げている。
「わ、笑ってませんよ」
「顔が緩んでるぞ」
「えっ。そ、それは薪さんの優しさが嬉しくて・・・」
「おまえ、さっき同じこと言って泣いてなかったか?」
 呆れ顔で首をかしげる彼の背中に、もう一度腕を回す。そのまま抵抗なく抱き寄せた肌の温もりを味わっていると、こちらの背にも、再び小さな手が添えられる。
 悪夢のことなんて、とっくに頭の中から消え去っていた。
 薪さん、と小さく呟くように名を呼んで、彼の髪に口元を埋めた自分が、まるで駄々をこねて甘える子供のようで情けない。
 そんな思いまで見透かされたのか、あるいは呼んだ名に応えただけか。
 暖かな彼の手は、あやすようにぽんぽんと、恥ずかしさで少し丸めた背中を優しく叩いた。


-おしまい-

 

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082.「月明かり」  (青薪)

 
 月の出ている夜は、好きだ。
 月の光を浴びた彼の髪が、とても綺麗だから。
 もとから白磁を思わせる肌はさらに抜けるように白く透き通り、月光を映した色素の薄い髪は、黄金色にも見える瞬間がある。
 一番好きなのは陽光のもと、その絹糸のような毛先までも気高い煌めきを纏っている時なのだが、今宵のこんな瞬間は、息を呑むほど綺麗に思える。
 だから。
 どうしようもなくなってしまう。



 仮眠室にて眠る彼の頬に、指先だけで触れる。
「ん・・・冷たい」
 すると予想外にあっさりと目を覚まし、身じろぎをする。
「起きてらしたんですか」
「おまえの手が冷たいから目が覚めたんだ」
 そう言いつつ彼は、まだベッドに体を横たえたまま、冷えたこの手を温めるかのように自身の長い指でゆるりと握った。
「手の冷たい人間は、心が温かいらしいな」
 まだいくらか眠っているような眼差しと声で、告げてくる。
「いや、仮眠室にまで夜這いにくるような男の心が温かいわけないな」
「よばっ・・・違いますよ、人聞きの悪いこと言わないでください」
 我ながらこんな状況下で否定しても説得力ないか、と思いながら、柔らかな彼の手をゆっくりと握り返す。
「薪さんの寝顔を見に来ただけです」
 すでに意識ははっきりしているらしく大きな瞳はぱっちりと開かれ、しかし怒った様子でもなく、こどものような表情でこちらを見上げている。
 その視線が、彼自身が横たわるベッド脇の、ブラインド越しの窓の外へと向かう。
「・・・明るいと思ったら、月が出てるんだな」
 そう。
「月が、出ていたから」
「ん?」
 ぽつりと漏らした呟きに、彼の視線がこちらへ戻ってきた。
 手を握ったまま身をかがめ、その瞳をのぞきこむと。
 月の光が映し出されているのか、琥珀色の瞳の中に、白く小さな炎のようなものがちらちらと光っている。
「・・・こういう時は、目を閉じるものでしょう?」
 そして、彼に、触れる。
 ほんの一瞬触れただけの    触れるだけの口づけを落とす。
「やっぱり夜這いじゃないか」
 目を開けてこちらを上目づかいで軽く睨んでいる薪さんに、苦笑してみせる。
「結果的に、そうなっちゃいましたかね」
 そう言って、誤魔化すように    自分でも何を誤魔化したいのかよくわからなかったが    彼の髪をひとなでした。
「1時間後に、起こしにきますね。おやすみなさい」
 その言葉とともに、ずっと握りしめていた指先を緩め、彼の手中からするりと抜きとる。
「おやすみ」
 少し遅れて返ってきた声を背中で受け止めて、ゆっくりと仮眠室のドアを閉じた。



 最初は本当に、ただ寝顔を見るだけのつもりだった。
 けれど。
 月光を浴びた彼を見ているうち、どうしようもなくなってしまった。
 ・・・まいったな。
 自嘲気味の苦笑を隠しつつモニタールームを通り抜け、廊下の窓から、先ほど仮眠室から眺めたのと同じ月を見上げる。
 月に魔力があるっていうのは、案外本当なのかも知れない。
 月夜には、これから気をつけた方がいいかも    月に、彼に、狂わされないように。


 -おしまい-

 

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